「車への乗り降りだけでなく、その先も手伝ってほしい」。介護タクシーを探すご家族から、そんな声をよく聞きます。車寄せで降ろしてもらったあと、受付までの長い廊下、会計の列、薬局の待ち時間。通院のハードルは、実は車を降りてからのほうが高いのです。介護タクシーさくら号は、院内の移動まで付き添う運行で、この「降りてからの困りごと」に応えている事業所です。代表ドライバーに、付き添いサポートの実際と、その裏にある準備の話を聞きました。

「乗せて終わり」にしない、という決意

さくら号が開業したとき、代表が決めていたことがひとつあります。「車寄せで降ろして終わり、にはしない」ということです。「開業前、身内の通院に付き添った経験があるんです。タクシーを降りたあと、受付までの数十メートルが、こんなに遠いのかと。車いすを押しながら、診察券を探して、書類を書いて。運転だけ引き受けても、通院の困りごとの半分しか解決できないと思いました」。

介護タクシーと一口に言っても、サービスの範囲は事業所によってさまざまです。運転と乗降の介助までの事業所もあれば、さくら号のように院内の付き添いまで担う事業所もあります。「どこまでやってくれるのかは、遠慮なく確認してほしいところです。私たちは『通院をまるごと支える』が看板です」。

病院の受付まで、必要なら診察室の前まで

さくら号の通院サポートは、自宅の玄関から始まります。ベッドや椅子から車いすへの移乗を手伝い、玄関の段差を越え、車両へ。病院に着いたら、受付での手続きに同行し、必要なら診察室の前まで付き添って、診察の間は待合で待機します。「受付や会計、必要なら診察室の前までご一緒します。ご家族が同行できない日でも、通院が止まらないように」。

診察が終われば、会計と院内薬局にも付き添います。「お薬の説明をメモして、ご家族に渡すこともあります。私たちは医療者ではないので判断はしませんが、『伝える』お手伝いはできますから」。待合での待機中も、ただ座っているわけではありません。呼び出しの聞き逃しを防ぎ、長い待ち時間には水分の声かけをし、体が冷えていないか気を配ります。「病院の待合は、意外と体力を削られる場所なんです。待ち時間こそ、付き添いの出番だと思っています」。帰宅後は、車いすから椅子やベッドへの移乗まで見届けて、その日のサポートが終わります。玄関から玄関まで、切れ目のない支援です。

介助の腕は、研修と経験で磨く

こうした付き添いを支えているのが、ドライバーの介助技術です。さくら号のドライバーは全員が介護職員初任者研修を修了しており、車いすの操作、移乗の介助、歩行の見守りを安全に行えます。「運転のプロであると同時に、介助の基礎を身につけたプロであること。介護タクシーのドライバーは、この二本立てだと考えています」。

研修は入社時だけでは終わりません。月に一度のミーティングでは、現場で迷った場面を持ち寄り、介助の手順を確認し合います。「病院のトイレでの介助をどこまで行うか、といった判断の線引きも、全員で揃えておきます。ドライバーによって対応が違うと、ご利用者が戸惑いますから」。

坂道での車いすの向き、砂利道の押し方、エレベーターへの出入りの角度。細かな技術の積み重ねが、揺れや不安を減らします。「車いすの方は、押される側の景色で世界を見ています。急に動くとどれだけ怖いか。私たちは定期的に、自分が車いすに乗って押される研修をやるんです。怖さを体で覚え直すためです」。

通院利用の一日は、こう流れる

初めての方に向けて、通院利用の流れも整理してもらいました。予約の電話で日時と行き先、体の状態を伝え、当日は約束の時間にドライバーが玄関へ。移乗と乗車を介助し、院内では受付から会計・薬局まで付き添い、帰宅後は室内への移乗まで見届ける。「初めての方は『どこまで頼んでいいのか』を迷われます。答えは『全部相談してください』です。できないことは正直にお伝えしますから」。

介護タクシーでの通院利用の一日の流れの図。予約で状態を伝える、自宅で移乗と乗車の介助、病院で受付から診察室前まで付き添い、会計・薬局に同行、帰宅後は室内への移乗まで見届けるという流れを示す

ご家族も一緒に乗れる安心感

さくら号の車両は、車いすのまま乗車してもご家族が隣に座れる設計です。「車いす席が孤立する車両もあるのですが、うちは隣に座って手を握っていられる配置を選びました。移動の時間も、家族の時間ですから」。診察に同席したいご家族が一緒に乗り、院内は分担して動く、という使い方も多いそうです。

ご家族が同乗しない日は、道中の様子を簡単なメモでご家族に共有します。「車内でのご様子、お変わりの有無。ご家族は『ちゃんと着いたかな』と心配されていますから、ひとこと報告があるだけで安心が違います」。連絡は決して大げさにせず、しかし欠かさない。その塩梅が信頼につながっています。

初めての利用前には「下見」も

初めての利用の前に、さくら号は自宅前の下見を勧めています。道幅は車両が入れるか、乗降のスペースはどこに取れるか、玄関から道路までの段差はどうか。「当日になって『車が入れない』では、お互いに困ります。下見をしておけば、当日は迷いなく動けます。ご本人の体の状態も事前にうかがえるので、介助の準備も整います」。

下見の際には、ご本人と顔合わせをしておくことも大切にしています。「初対面の人にいきなり体を預けるのは、誰だって緊張します。一度顔を合わせて、少し話しておくだけで、当日の空気がまったく違うんです」。顔合わせでは、移乗のときにつらい姿勢がないか、声をかけてほしいタイミングはいつかも聞いておきます。「介助の好みは、人によって本当に違います。先に聞いておけば、初回から『いつもの人』に近い介助ができるんです」。

予約のときに伝えてほしいこと

予約の電話で伝えてほしいことも聞きました。日時と行き先に加えて、車いすの種類(自走式か、リクライニングか)、移乗にどの程度の介助が必要か、点滴や酸素などの医療機器の有無、そして「その日に一番不安なこと」。「情報が多いほど、準備の精度が上がります。特に医療機器については、対応できる範囲の確認が必要なので、必ず教えてください」。

体調に波がある方の場合は、当日の変更やキャンセルの扱いも先に確認しておくと安心です。「体調不良のキャンセルを責めることはありません。むしろ無理に外出するほうが心配です。変更の連絡は遠慮なく、が私たちの方針です」。

予約の窓口は電話が基本ですが、ケアマネジャー経由の依頼も多く、定期通院はまとめて予約しておくこともできます。「月初に翌月分の通院日をいただければ、車両と担当を確保しておきます。『予約が取れるだろうか』という心配を、暮らしから消しておきたいんです」。

雨の日、猛暑の日の「先回り」

天候の悪い日の乗り降りにも、さくら号の細かな工夫があります。雨の日は、玄関先まで大きな傘を差しかけ、車いすの座面が濡れないようタオルを用意。車内は先にエアコンを効かせておき、夏は乗り込む瞬間の暑さを、冬はひやりとした空気をなくしておきます。「濡れた・暑かった・寒かった、という小さな不快が、外出そのものを嫌いにさせてしまうんです。天気の悪い日ほど、私たちの仕事の細部が試されます」。

猛暑の時期は、予約の時間帯の相談にも乗ります。「炎天下の移動を避けて午前の早い時間に変える、といった調整です。通院は日時が動かせないこともありますが、動かせるものは体に優しい時間へ。それも私たちからご提案します」。

定期通院は「いつもの段取り」で軽くする

透析やリハビリなど、定期的な通院を支えるのも介護タクシーの大事な仕事です。さくら号では、定期利用の方について、病院ごとの段取り——受付の場所、呼び出しの仕組み、会計の流れ——を記録し、毎回同じ品質で動けるようにしています。「通い慣れた病院でも、ご本人にとって毎回の移動は体力仕事です。段取りをこちらが覚えておけば、ご本人は体力を診察に取っておけます」。

顔なじみになることの効果も大きいといいます。「毎週お会いしていると、『今日はいつもより顔色がいいですね』が分かるようになります。変化に気づいたら、ご家族やケアマネさんにお伝えします。定期の送迎は、定点観測でもあるんです」。

頼めることの広がりを知ってほしい

通院の話を中心にしてきましたが、さくら号への依頼はそれだけではありません。買い物への同行、美容室への送迎、役所の手続きへの付き添い、そして家族での外食。「介護タクシーは『病院に行くための車』と思われがちですが、暮らしの足として、もっと自由に使ってほしいんです」。次の図は、同事業所に依頼できるサポートの広がりを整理したものです。

介護タクシーに依頼できるサポートの範囲の図。通院の院内付き添いを中心に、買い物同行、美容室送迎、役所手続きの付き添い、外食や行事への同行など暮らしの足としての使い道の広がりを示す

「印象的だったのは、『孫の結婚式に出たい』というご依頼です。式場との段取り、車いすでの動線確認、当日の付き添い。ご本人が親族席で涙を拭いておられる姿を見て、この仕事をやっていてよかったと思いました」。移動が難しくなることは、人生の行事をあきらめる理由にはならない。さくら号の仕事ぶりが、それを証明しています。

認知症のある方の通院も、安心して

認知症のある方の通院サポートには、また別の配慮が要ります。さくら号では、ご家族から「安心する話題」「不安になりやすい場面」を事前に聞き取り、道中の声かけに活かしています。「初めての場所や急かされる場面で不安が強くなる方が多いので、動作のたびに『次は車に乗りますね』『病院に着きましたよ』と、これから起きることを短く伝えます。見通しの声かけは、認知症のある方には特に効くんです」。

同じドライバーが継続して担当することも、安心につながります。「顔を覚えていただけなくても、『なんとなく知っている感じの人』にはなれるんです。その『なんとなく』が、乗車の際の体のこわばりを解いてくれます」。ご家族には道中の様子を毎回伝え、不安が強かった場面は次回の段取りに反映していくそうです。

通院が「外出の自信」を取り戻す練習になる

さくら号の付き添い通院を続けるうちに、思わぬ変化が生まれることがあります。外出そのものへの自信です。「通院は、いわば毎月の外出訓練です。乗り降りに慣れ、外の空気に慣れ、人に頼ることにも慣れる。すると『病院のついでに、あの店に寄れないか』という言葉が出てくるんです」。

さくら号では、体調と時間が許せば、通院帰りの小さな寄り道にも応じています。なじみの和菓子屋で買い物をする、公園の桜を車窓から眺める。「ほんの10分の寄り道が、その日を『病院に行った日』から『桜を見た日』に変えてくれます。移動の仕事をしていて、一番うれしい瞬間かもしれません」。

料金の仕組みは、先に説明する

気になる料金についても率直に聞きました。介護タクシーの料金は一般に、運賃に加えて、介助の内容に応じた介助料や機材の利用料で構成されます。金額や体系は事業所によって異なるため、さくら号では予約時に必ず見積もりの目安を伝え、当日の変動があり得る部分(待ち時間など)も含めて説明しています。「料金の不安があると、遠慮が生まれます。遠慮は、頼みたいことを飲み込ませてしまう。だから先に、全部お話しします」。

介護保険や自治体の助成制度が使える場合の案内も、ケアマネジャーと連携しながら行っているそうです。「制度は複雑なので、『使えるかもしれない制度がある』ことだけでも知って帰ってほしいですね。詳しくは担当のケアマネさんと一緒に確認しましょう」。

車両と装備も、介助の一部

さくら号の車両は、スロープでの乗り込みに対応した福祉車両です。車いすの固定は四点式で確実に行い、走行中の揺れを最小限に抑える運転を徹底しています。「装備は日々進化していますが、最後は運転です。発進と停止をどれだけ滑らかにできるか。車いすの方は体幹で踏ん張りにくいので、普通の運転の『少しの荒さ』が大きな揺れになるんです」。

リクライニング式の車いすにも対応しており、座位の保持が難しい方の通院にも使われています。「どんな車いすで、どんな姿勢で移動したいか。予約のときに教えていただければ、車両と機材を合わせます。『この状態では乗れないだろう』とあきらめる前に、まず聞いてください」。

事業所選びで確認したい3つのこと

最後に、介護タクシーを探している方へのアドバイスです。代表が挙げたのは3点。「介助はどこまでお願いできますか」「ドライバーはどんな研修を受けていますか」「初めての利用前に下見や顔合わせはできますか」。「この3つを聞けば、その事業所の考え方はだいたい分かります。料金の安さだけで選ぶと、当日『それはやっていません』が起きがちです」。

サービスの範囲は事業所ごとに本当に違うため、依頼したいことを具体的に伝えて、できるかどうかを確認するのが確実だといいます。「『通院に付き添ってほしい』ではなく『会計と薬局まで付き添ってほしい』と言ってみてください。答えの具体性で、経験の厚みが見えてきます」。あわせて、電話の応対そのものも判断材料になるそうです。「体の状態を丁寧に聞いてくれるか、できないことを正直に言ってくれるか。最初の電話には、その事業所の姿勢が全部出ますよ」。

まとめ

介護タクシーさくら号の取り組みからは、介護タクシーが「福祉車両での送迎」にとどまらず、玄関から診察室の前まで、暮らしの行事から人生の節目まで支える仕事であることが見えてきました。院内の付き添いまで頼めるか、下見や顔合わせがあるか、料金の説明は明快か。予約の前のいくつかの質問が、安心できる事業所選びにつながります。通院の負担を感じているご家庭は、一度相談してみてはいかがでしょうか。