介護タクシーの使い道は、通院だけではありません。福祉タクシーそらには、買い物、美容室、お墓参り、結婚式への出席、季節の花見——さまざまな外出の依頼が寄せられています。「車いすになったから」「体力が落ちたから」とあきらめていた場所へ、もう一度。そらの外出支援は、移動手段の提供を超えて、暮らしの楽しみを取り戻す仕事になっています。「私たちが運んでいるのは、人ではなく『行きたい気持ち』なんです」と話すドライバーに、外出支援の実際を聞きました。

「もう行けない」と決めていたのは、誰か

そらのドライバーが忘れられないという依頼があります。数年ぶりのお墓参りでした。「車いすになってからお墓参りをあきらめていた方でした。ご家族も『墓地は砂利道だし、段差もあるし』と半分あきらめていた。でも、下見に行ってみたら、駐車場から別ルートで回り込めば車いすで行けることが分かったんです」。

当日、その方はお墓の前で長く手を合わせ、帰りの車内で「これで、ご先祖に叱られなくて済む」と笑ったそうです。以来、お彼岸の時期の定期的な依頼になっているといいます。「『行けない』は、思い込みのこともあります。正確には『行き方をまだ調べていない』だけ。調べるのは私たちの仕事です。あきらめる前に、一度聞いてほしいんです」。

外出を支えるのは、事前の下調べ

そらの外出支援の心臓部は、事前の下調べです。行き先の駐車場の場所と広さ、入口までの通路の状態、段差とスロープの有無、多目的トイレの場所、休憩できる場所。初めての行き先には、可能な限り実際に足を運んで確認します。「電話で聞くだけでは分からないことが多いんです。『スロープあります』と言われて行ったら、急すぎて使えない勾配だったこともあります。自分の目で見るのが確実です」。

下調べの結果は、ご本人とご家族に写真つきで共有します。「『ここまでは車で、ここからは車いすで、トイレはここにあります』と見せると、ご本人の顔が変わるんです。行けるイメージが持てた瞬間、外出はもう半分成功しています」。下調べの手間を惜しまない理由を尋ねると、答えは明快でした。「当日の『想定外』をひとつでも減らすためです。外出先での想定外は、ご本人の体と心に直接響きます。準備で消せる不安は、全部先に消しておきたいんです」。下調べで確認している項目は、次の図のとおりです。

外出前の下調べ項目の図。駐車場の場所と広さ、入口までの通路の状態、段差とスロープ、多目的トイレの場所、休憩できる場所という5つの確認項目を、行き先の下見で確かめることを示す

「同窓会に出たい」という依頼の話

下調べの力が発揮された依頼を、もうひとつ聞きました。「還暦をとうに過ぎた方の、小学校の同窓会でした。会場は古い料亭で、入口に立派な石段がある。普通なら『車いすでは無理』で終わる場所です」。そらは料亭と何度もやりとりし、勝手口からの動線と、店の若い衆の手を借りた持ち上げの段取りを組み立てました。

当日、その方は数十年ぶりの級友たちに囲まれ、閉会まで席を立たなかったそうです。「帰りの車で、『みんな年を取ったなあ』と、ご自分のことは棚に上げて笑っておられました。ああいう夜のために、この仕事があるんだと思います」。行き先が難しいほど、下調べと調整の価値は大きくなる。外出支援の真骨頂を感じる話でした。

時間貸しで、せかさない外出を

買い物や式典など、滞在時間が読みにくい外出には、時間単位での利用に対応しています。「メーターを気にしながらの買い物は、楽しくありません。時間貸しなら、売り場でゆっくり選んでいただけます。私は荷物持ちと車いす押しに徹します」。スーパーでの食材選び、衣料品店での試着、園芸店での鉢選び。ドライバーは付かず離れずの距離で見守り、必要なときだけ手を貸します。

「買い物は、自分で選ぶことに意味があるんです。ヘルパーさんに頼めば買ってきてもらえます。でも、棚の前で迷う時間、旬のものを見つける喜びは、行かないと味わえません」。帰りの車内で戦利品の話に花が咲くのが、この仕事の楽しい時間だといいます。「『今夜はこれを煮付けにする』と、袋の中の魚の話を延々と聞かせてくださる方がいます。献立を自分で決めた人の声は、張りが違うんですよ」。買い物は、暮らしの主導権を取り戻す時間でもあるようです。

冠婚葬祭——出席をあきらめさせない

そらが特に力を入れているのが、冠婚葬祭への出席支援です。孫の結婚式、親族の法事、旧友の葬儀。人生の節目の場に「体のこと」を理由に欠席するのは、本人にとってもご家族にとっても心残りになります。「式場や斎場は、事前に連絡すれば車いすでの動線や設備を教えてくれるところがほとんどです。私たちが会場と直接やりとりして、動線を組み立てます」。

結婚式では、控室での待機や、写真撮影への移動の付き添いまで対応したこともあるそうです。「ご本人が『行ってよかった』と言ってくださるのはもちろんですが、まわりのご親族が『来てくれてありがとう』と涙ぐまれる。出席には、本人だけのものではない意味があるんだと教わりました」。

美容室と外食——「身だしなみ」と「記念日」の外出

外出支援の定番になりつつあるのが、美容室・理容室への送迎です。「髪を整えに行く、という外出には独特の効き目があります。帰りの車内の表情が、行きとまったく違うんです。背筋まで伸びて見えます」。なじみの美容室に通い続けたいという希望に応え、店側と乗降場所や待ち時間を調整することもあります。

家族の記念日の外食も、人気の依頼です。誕生日、結婚記念日、退院祝い。「レストランには事前に連絡して、入口の段差、テーブルの高さ、車いすのまま着席できる席を確認します。お店の側も、事前に分かっていれば快く準備してくださるところが多いですよ」。外食の間、ドライバーは車で待機し、食事が終わる頃合いに迎えに入ります。「ご家族水入らずの時間に、私たちは影に徹します。送り迎えの安心があるから、家族は食事に集中できる。それでいいんです」。

一枚の写真が、次の外出を連れてくる

そらのドライバーは、外出先で希望があれば写真撮影を買って出ます。桜の下で、お墓の前で、式場の入口で。「ご本人とご家族が一緒に写れる写真は、意外と貴重なんです。いつも撮影係のご家族が、写る側になれますから」。写真は思い出になるだけでなく、次の外出への呼び水にもなるといいます。

「居間に飾られた花見の写真を見て、『来年も行こうか』という話になる。離れて暮らすごきょうだいに写真が送られて、『今度は私が付き添う』と外出の輪が広がったこともあります」。外出の成果は当日だけで終わらない。一枚の写真が、その証拠として残り続けます。

「車いすで行ける場所」の情報が、育っていく

下調べを重ねるうちに、そらには地域の「車いすで行ける場所」の情報が蓄積されてきました。多目的トイレのある公園、入口がフラットな食事処、車いすでも回りやすい神社の参道。「この蓄積は、次のご利用者への提案力になります。『紅葉なら、あそこの公園が段差なしで回れますよ』と、こちらから引き出しを開けられるんです」。

行き先の店や施設との関係も、外出のたびに育っていきます。「何度かご案内したお店が、スロープを常備してくださるようになったこともあります。車いすのお客様が『来る』と分かれば、店は変わるんです。外出支援は、まちのバリアフリーを少しずつ耕す仕事でもあると思っています」。

季節の外出は、心の栄養

春の花見、秋の紅葉、初詣。そらには季節の外出の依頼も多く寄せられます。「不思議なもので、季節の外出から帰ると、皆さん食欲が出るんです。きれいなものを見る、外の空気を吸う、季節を肌で感じる。これは心の栄養だと思っています」。

季節の外出は、混雑との付き合い方が鍵になります。「桜の名所も、平日の午前中なら車いすでゆっくり回れます。混雑を避ける日時の提案も、私たちの下調べのうちです。人混みのストレスなく、いい場所だけを味わっていただく段取りを組みます」。行き先の提案を頼まれることもあり、車いすで回りやすい公園や施設の情報が、そらには蓄積されているそうです。「『どこかいい場所はないか』というご相談も大歓迎です。季節と体調に合わせて、いくつか候補をお出しします。旅行会社のプランナーみたいな気分になる瞬間ですね」。

外出の計画は、体調との相談から

外出支援の計画は、行き先より先に、体調の確認から始まります。長く座っていられる時間、トイレの間隔、疲れやすさ、薬の時間。「計画は『行きたい場所』と『今日の体』の間で組むものです。無理な計画は、次の外出への意欲を削いでしまいますから」。

初めての外出は短時間・近距離から始め、成功体験を重ねてから範囲を広げていくのが、そらの定石です。「最初から遠出をしなくていいんです。近所の公園で30分。それが成功したら、次はもう少し先へ。外出の体力と自信は、階段のように積み上げるものです」。ご本人が乗り気でない日に、無理に誘わないことも大切にしています。「外出は義務ではありません。『今日はやめておく』も立派な判断です。ただ、玄関先で外の空気を吸うだけの日があってもいい。ゼロか百かにしないのが、長く外出を楽しむコツです」。当日の体調がすぐれなければ、延期の判断も一緒にします。「延期は失敗ではありません。『また今度』と言える関係でいることが大事です」。

相談から当日までの流れ

外出支援の流れも整理してもらいました。まず電話で「行きたい場所」と体の状態を相談し、そらが下調べを実施。写真つきの報告をもとに当日の計画(ルート・休憩・トイレ・所要時間)を一緒に立て、当日は玄関から目的地、そして帰宅まで付き添います。「計画づくりまでで、仕事の七割は終わっています。当日は、計画を安心して裏切らないように動くだけです」。

外出支援の相談から当日までの流れの図。行きたい場所と体調の相談、現地の下調べ、写真つき報告をもとにした計画づくり、当日の付き添いという4つのステップを示す

ドライバーの心得は、「待てること」

そらのドライバーに、この仕事で一番大切な技術を聞くと、意外な答えが返ってきました。「待てることです」。売り場で商品を選ぶ時間、お墓の前で手を合わせる時間、桜を見上げる時間。「その時間をせかしたら、外出支援は台無しです。時計を見ない顔で待つ。これが案外むずかしい」。

待つ間も、目は離しません。疲れのサイン、ふらつき、表情の変化。「離れて見守りながら、必要な瞬間だけそっと手を貸す。存在感を消しながら、安全は確保する。矛盾しているようですが、この両立が外出支援の職人芸だと思っています」。利用者からは「そらさんは、急かさないから好き」という言葉をもらうそうです。「最高の褒め言葉です。移動の仕事なのに、褒められるのは止まっている時間なんですから」と笑います。

外出しやすい体をつくる、前日からの準備

外出の成功は、当日の朝より前から始まっています。そらでは、外出前日の過ごし方についてもご家族に簡単な助言をしています。前日はゆっくり休むこと、当日の朝は時間に余裕を持って支度すること、着脱しやすく体温調節のしやすい服装を選ぶこと。「出発前に疲れてしまうと、せっかくの外出が半分になります。支度の負担を減らす工夫まで含めて、外出の計画です」。

トイレの計画も大切です。「出発直前に済ませて、行き先の多目的トイレの場所を押さえておく。『トイレの心配がない』と分かっているだけで、外出の心理的なハードルはぐっと下がるんです」。細かなことの積み重ねが、「また行きたい」につながっていきます。

ケアチームと組む「目標としての外出」

最近増えているのが、ケアマネジャーやリハビリ職と連携した外出だといいます。「『秋に紅葉を見に行く』を目標に、日々のリハビリに取り組む。私たちは目標の日の移動と付き添いを担当する。外出がリハビリの目標になり、リハビリが外出を支える。いい循環です」。

外出の後には、当日の歩行の様子や疲れ具合をケアマネジャーに報告し、次の目標づくりの材料にしてもらいます。「外出支援は、ケアの外側にあるご褒美ではなく、ケアの一部になれる。そう考えると、この仕事の役割はまだまだ広がると思っています」。

「外出できる」が、日常を変える

外出支援を続けてきて感じる変化を、ドライバーはこう話します。「一度外出に成功すると、暮らしが前向きになる方が多いんです。『次はどこへ行こうか』が日常の話題になる。リハビリへの取り組み方が変わった、という話もご家族から聞きます」。

行きたい場所があることは、体を整える理由になります。「『秋に紅葉を見に行くから、それまで足を鍛える』とおっしゃった方がいました。外出は結果であると同時に、目標にもなるんです」。ケアマネジャーやリハビリ職と外出の計画を共有し、日々のケアの目標に組み込んでもらうこともあるそうです。

ご家族にとっても、外出支援は「介護の風景を変える」体験になるといいます。「家の中では介護する側とされる側だった親子が、桜の下では『きれいだね』と言い合うだけの親子に戻れる。付き添いの私たちは、その景色を少し離れて見ているだけですが、この仕事の意味はそこに全部詰まっていると思います」。移動の支援は、関係の支援でもある。取材を通じて、何度もそう感じさせられました。

まとめ

福祉タクシーそらの外出支援からは、「もう行けない」の多くが「行き方をまだ調べていない」だけであること、そして丁寧な下調べと体調に合わせた計画があれば、お墓参りも結婚式も花見もあきらめなくてよいことが見えてきました。時間貸しでの買い物、冠婚葬祭の出席支援、季節の外出。介護タクシーの使い道は、通院よりずっと広いのです。あきらめている場所があるなら、外出支援に対応した事業所に、まず「行けますか」と聞いてみてください。